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[2018.1-Vol.49] 『「治療プロセス」について-その②-』

学生のみなさん、新年あけましておめでとうございます。

 今年も干支のお話です。十干十二支の組み合わせでは、戊戌(つちのえいぬ)ということとなります。
性格は、
努力家で誠実、リーダータイプが多いようです。総務省の統計では、干支の中で、戌年の人口は少なく976万人で日本の全人口7.7%の割合となっています。

さて、戌(犬)に関わるお話では、りんくうキャンパスのある泉佐野市には、古くから義犬伝説が伝わっています。主人を助けるために犠牲となった愛犬のお話で、それが「犬鳴山(いぬなきやま:いぬなきさん)」の由来となっています。(詳しくは泉佐野市観光サイトをご覧ください:外部リンク)
獣医学類がりんくうキャンパスに設置されたのも何かのご縁なのでしょうね。

そして、江戸時代、お伊勢さんに多くの日本人が参拝していました。でも、足腰が悪い人や病弱な人は行けません。その代り愛犬に託してお伊勢参りに送り出したことは、ご存じでしょうか?”おかげ犬”と言い、しめ縄を付けるなどして、周囲にわかるようにしました。道中、おかげ犬を見かけた多くの人が助け、お世話したようです。
浮世絵師 歌川広重の「伊勢参宮宮川渡しの図」にも描かれています。
日本人と犬の関係をよくあらわしているようです。

※WEB学生サービスセンターでは、いつでも専門の相談員がメールによる心の相談を受け付けています。羽曳野キャンパス・りんくうキャンパスでは、各学生相談室のカウンセラーが対応できない日に、TV電話での対応(要事前予約)も行っておりますので、気軽にご相談下さい。【どんな相談があるの

(WEBSC)


『「治療プロセス」について-その②-』

 WEBSCの菊池です。前回の治療目標の続きを記載します。今回は“自己凝集性”です。日常生活でまったく耳慣れない専門用語だと思います。この概念は、私たちの人格の核となる自己がゆっくりと変化することはあっても基本的にしっかりとまとまって整合性があり、安定した活力のある状態をそれは意味しています。また、さらに別の表現を用いれば、過去・現在・未来にわたって‘私は私である’という時間的な連続性と意味を体験している状態であり、身体感覚とも関連する自分自身の空間的な統一感覚も基本的に自覚できる状態であるといえます。

 この自己凝集性に対して、それと対極的な状況は断片化と呼ばれています。それは、自分がバラバラになるような感覚であり、自己評価の喪失や空虚感、抑うつ感、そして無価値感や不安感あるいは不快な身体感覚(心気症)としても体験される場合があります。この自己の断片化はさまざまな程度で生じるものの、時おり、それは死への切迫感という恐怖として体験されたり、大部分はそこまでは至らないものの、その自己の断片化が仮に際限なしに進行した場合は、精神病とよばれる心理状態(圧倒的で破滅的な心境)にまで到達することがあります。

 また、このような自己の断片化による自己喪失、不安、そして自己が死んだような無感覚さというあまりにつらく苦痛な体験を回避したり、この自己の断片化のプロセスを逆行させようとする緊急の処置が取られる場合があります。それは、自己に対して刺激を与えたり興奮をともなう行動であることが多く、例えば、狂乱めいた生活スタイルや薬物乱用、アルコール中毒、性的倒錯、非行、そして強迫的なギャンブルなどが挙げられます。

 Wolf(1988)は演説場面や文学作品(Sartreの小説『嘔吐』)を用いて、両者の現象をとてもわかりやすく詳細に例証しています。自己凝集性に関しては、「大切な同僚たちのグループの前で演説をする人を想像してみてほしい。聴衆の前に立つ時、彼はとても得意に感じると同時に、多少不安でもあるだろう。皆は自分の話をどのように受けとめるだろうか?彼は心のうちにあることを話し、聴衆は多少とも注意深く彼の話に耳を傾ける。彼は、自分は話を聞いてもらい反応してもらっていると感じる。その結果、自分をよりよく感じ、より自分自身を確かなものに感じる。言葉を変えれば、彼の自己評価は高まるのである。」と説明しています。

 また、その対極であると自己の断片化に関しては、次のように解説しています。「しかし、もし聴衆が彼の話に少しうんざりとしてきたらどうだろう。多分彼は、聴衆のあくびや伸び、そして部屋のざわつきに気づき、幾人かは部屋から出ていくかもしれない。その結果・・・おそらく彼は、不快に感じ始め、気が散って、それから自信を失うかもしれない。多分、言葉がつかえ、話していたことを見失ったり、声が詰まったり、赤面したり、ぐっしょりと汗をかいたりするだろう。人は突然、周囲から反応されなかったり、遮断されてしまったと感じるとき・・・非常に不快なものであるとことを知っている。・・・これを概念化すると、彼の自己は・・・断片化したといえるだろう。」

 これらの現象を左右する要因とは何なのでしょうか。それは、すでに上述の具体例に示されているような、自己支持的な主観的体験であるといえます。この自己支持的な体験が関わる要因には、いくつかのタイプが理論的に分類されています(Wolf,1988)。
①自己が受け容れられ、自己の素晴らしさ、良さ、完全さが確証されるような体験。
②落ち着き、力、英知、そして良さに自己が融合する体験。
③自己が他者と本質的に似ていると感じる体験。
④自己が反対の立場を取りながら前向きに自己主張してくるのを許すことを通して、自己がイニシアティブの中心である体験。

 理論上は、人が何らかの心理的不適応や自己の弱体化に陥る場合には、ひとつの仮説として、上述の体験の失敗や欠損による発達の停止が想定されます。それは重要な発達時期(幼少期・子ども時代)であることもあれば、青年期、中年期、そして老年期での発達的な危機の時期で生じた自己支持的な体験の失敗による自己の損傷である場合もあります。また、それらの影響が‘今ここ’で生じている現在の新しい自己支持的な体験が機能することを邪魔する防衛的な態度を取らせる場合にも、自己が強まる体験が得られず前述の不適応や弱体化の心理(自己)状態を引き起こします。

 では、これらの見地を基盤とした心理療法における治癒過程の理論的な概略とはどのように見立てられるでしょうか?あえて表現すれば、それは相談者に生じてくる自己の損傷を繰り返すのではないかという‘恐怖’と自己支持的な体験が得られるのではないかという‘希望’という両者が織りなす複雑な心理的現象を、できる限り受容的な雰囲気のなかで関わる側(治療者)がその状況の意味を共感的に‘理解’し、そしてそれを繰り返し相談者に‘説明’するという過程で、相談者に自己支持的な体験が生じ、相談者の弱まっていた自己が徐々に強まることであると考えられます。

菊池秀一

≪参考文献≫

    1. Kohut,H.(1971).The Analyisis of the Self . International University Press ./ 水野信義・笠原嘉監訳(1995).『自己の分析』みすず書房.
    2. Kohut,H.(1977).The Restoration of the Self . University of Chicago Press ./ 本城秀次・笠原嘉監訳(1995).『自己の修復』みすず書房.
    3. Kohut,H.(1984).How does analysis cure ? University of Chicago/本城秀次・笠原嘉 監訳(1995).『自己の治癒』みすず書房.
    4. Lee,R.&Martin,J.(1991).PSYCHOTHERAPY AFTER KOHUT.Analytic Press./竹友安彦・堀史郎監訳(1993).『自己心理学精神療法』岩崎学術出版社.
    5. Wolf,E.S.(1988).Treating the self :Elements of clinical self psychology.New York:Guilford Press./安村直己・角田豊訳(2001).『自己心理学入門』金剛出版.

 

 

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