お知らせ

category

[2017.7-Vol.48] 『「治療プロセス」について-その①-』

大阪府立大学の学生のみなさん、お元気ですか。

今夏は、後期授業が始まるころまで猛暑と予想されています。
『熱中症』などに気をつけて十分な水分を取りましょう。
最近は、『光化学スモッグ注意報・警報』が発令する場合もあります。 スポーツ系や外で活動するクラブ、出かけている方は、屋内に入るなど運動や行動を控えてください。
【大阪府の光化学スモッグの発令状況はこちらを】

そして、前期試験がもうすぐ終わりますね。
終われば、長期の夏休みです。みなさんは何を予定していますか?(右の写真は府大池 夏の風景、蝉の声を想像してください)

4月に入学した1年生は、初めての期間です。この4か月は、はじめて見ること聞くことだった?少し落ち着いてみるのもよいかもしれません。
ひと呼吸おいて、クラブ活動や旅行(海外含む)や車の運転免許を取る人もいるかも知れませんね。アルバイトやボランティアに参加する人、本分である勉学をさらに追及する人、その補てんに英会話やパソコン習得する人など。思い出に残る夏休みになりますように。

※WEB学生サービスセンターでは、いつでも専門の相談員がメールによる心の相談を受け付けています。羽曳野キャンパス・りんくうキャンパスでは、各学生相談室のカウンセラーが対応できない日に、TV電話での対応(要事前予約)も行っておりますので、気軽にご相談下さい。【どんな相談があるの

(WEBSC)


「治療プロセス」について-その①-

 WEBSCの菊池です。今回は「治療プロセス」について記載したいと思います。いつからでしょうか。心理学に関わる仕事をしていると、「心が読まれそうですね。」「(心が)わかるんでしょうね。怖いですね。」などと(半分くらいは冗談なのかもしれませんが)会話のなかで伝えられることがあります。読心術とでもいうのでしょうか。とはいったものの、どのように心の状態を観察しているかということについて、(当然ですが)そのような会話の際に説明することもまずありません。そのため、一度このような場をお借りして私自身の複眼的視点のひとつを説明してみるのもよいのではないかと思ったのが、今回のテーマを記載しようと思ったきっかけです。

 現在、臨床心理学における専門的な領域は、大枠の違いからさらに細分化されているような現状があります。ここで論じる説明は、そのような多種多様にある専門的説明のうちのひとつであるとご理解いただければと思います。また、その前に手始めとして治療プロセスが向かうであろう方向性、すなわち治療目標について記載したいと思います。

 まず第一に“症状の緩和”があります。相談者の主訴は様々ですが、例えば不安が強い、ストレスが強い、恐怖感が強い、無気力感がある、劣等感が強い、孤独感が強いなどある程度まではそのお悩みの主な特徴をまとめることができます。完全に症状が治ればそれにこしたことはないかもしれませんが、まずは仮に少しずつでも症状が緩和することができれば、相談者の要望に応えることができたといえます。なかには、時折ですが不安を完全に消し去りたいとの相談を受ける場合もあります。その場合は、逆にそのような語り自体に何らかのパーソナリティの要因が関わっていることもあります。症状の緩和は、ある意味で最も共有のしやすい(わかりやすい)治療目標であるかもしれません。よく確認されるのが「以前よりも楽になりました。」との旨のコメントがあります。

 第二に“洞察”があります。相談開始時の主訴は前述したように何らかの顕著な症状がまず語られることがありますが、それが単体であるかといえば必ずしもそうではありません。例えばそれが複数にまたがっている場合もありますし、相談が進展していくにつれて、当初の主訴は表面的であり、さらに深い悩みやテーマが語られることは多々あります。特にお互いの信頼関係が増したと思われる場合には、そのような展開が見受けられることが多くあります。

 例えば、前述の症状の緩和の目標になりえる過度の不安感や恐怖感に関してですが、相談を重ねるうちにその背後にはそれらを引き起こすもっと深い感情が隠されている場合が少なくありません。その深い真の感情や衝動が存在するために、それらの不安や恐怖が刺激されているのです。また、それらの感情は防衛という心的機制によって歪められていて、深く実感したり体験することから巧妙に避けられている場合も多々あります。

 より具体的には、例えば、相談者が最近の出来事として周囲の誰かが自分に怒りを抱いているということへの過度の心配や恐怖感が語られたとします。もちろん、そのようなことが生活環境で現象している可能性の余地は否定するものではなく、慎重に検討することはいうまでもありません。しかしながら、相談が進展する中で、実際に心底において強い怒りを抱いているのは相談者自身であり、その怒りを生々しく感じることは強い不安を本人に引き起こしてしまい、また、その怒りをじかに感じることを避けるために周囲の誰かが怒っているという文脈(体験)に心的防衛として置き換えられて(投影)いることが、その症状形成に関与しているという複雑な構図で理解され判明することがあります。

 また、そのような構図が最近という話題(時間的次元)において相談者から語られる一方で、他方において相談者の遠い過去の話題や相談状況という今・ここの話題においてもその構図が出現(再現)するという現象が想定されます。また、その時間的次元の展開に伴って、そこで相談者によって語られる人物も相談者の親や家族であったり、相談員であったりと、その対象が日常生活の最近のある人(他者)との出来事に限ったことではないことが、こちらも複雑な構図で理解され判明する場合があります。

 このように、『最近の過去-今・ここ-遠い過去』、『不安-防衛-隠された感情(衝動・動機)』そして『他者-治療者-親』という三種類三項目ずつの複雑な意味的連関において、相談者がそれぞれに共通した特徴的な行動様式の同一性について(繰り返し十分に)理解することが、“洞察”という治療目標の重要な構成要素であるといえます。

 洞察について記載しましたが、上述の論旨は現在では伝統的あるいは古典的というパラダイムで括られることがあります。その理由のとしては、その病因の理論化の中核に過去に起因する精神内界の衝動に基づく心的葛藤(心的装置)の現在への反復(強迫)という視座があり、その過去から現在への反復的な置き換えや(過去による現在の)現実の歪曲を中立的・客観的に治療者が観察でき扱うことができると理論上想定されているからです。

 しかしながら、現代では観察者が観察野に避けがたく(相互に)影響を与えるという観点が、物理学や哲学、そして乳児研究などの影響によって強まっています。それは、いかに中立的に相談者の反復的現象を客観的に観察し扱うかというよりも、むしろ観察者が観察野の一部である事を前提に、そのような治療者が中立的であろうとすること自体の影響そのものさえも観察(探索)される現象に含むことのできる理論化であるといえます。

 例えば、その理論化では相談場面で相談者に感じ取られる、あるいは表出される怒りの気持ちに関しても、それを心の深層にあり過去に起因する攻撃的な衝動の現在的な場への置き換えとのみ理解してその意味を解き明かす(洞察)というだけではなく、治療者側の要因も含む現在進行形の相互的な影響(前述のように、例えば客観的・中立的であろうとする治療者の対応スタンスそのものさえ)も探索の焦点になります。すなわち、相談者の心にはそのようなスタンスそのものが(過度に)共感的でなく受け取られたかもしれず、そこから生ずる相談者の自尊心の傷つきにより引き起こされた怒りという感情(現象)であるかもしれないと多次元的に検討する余地を含むことのできる理論化であるといえます。

 そのため、ここで述べられている洞察とは相談者の心の深層にあると想定される無意識的な真相を客観的に発掘(発見)するという観点ではなく、治療者と相談者との相互依存的な関係性によって共決定(共創造)されていく意味をともに理解しようとする観点であるといえます。その背景には主体と客体を分割したり、部分や要素へと還元するデカルト主義の観点から、人の心をすでに内属している現在進行形の関係性というシステム(世界)から理解しようとする観点への理論的な変遷が存在します。

 第三に“主体性”があります。学生相談を担当していると、相談者から今どうすれば最善か答えがほしいという旨の相談を受けることが少なからずあります。専門的な視点やこれまでの対応経験から、相談者からの質問に迅速に何らかの応答ができないわけでもありません。しかしながら、ここで頻繁にアドバイスを行ってしまうことには時に注意が必要です。というのは、相談者の依存が逆に過度に強まってしまい、1から10までアドバイスを何度も求めてこられるということも想定されるからです。

 また、相談者は例えば前述したように不安や恐怖であったり、強迫観念や強迫行為、そして妄想などに心が支配されていることも少なくありません。これらの傾向に共通するのは、自分自身の内的な自由の感覚や自律感覚を相談者が失っているということです。

 これらの理由から、相談者の考えや感じていること(自体)を明確にする応答を行ったり、心理療法での話題を相談者に選んでもらうことなどが技法的に用いられることがあります。

 しかしながら、例えば相談者に自傷・他害などのリスクや緊急性がある場合や、修学上の相談を受けた場合、医療機関への紹介や連携を取る必要性がある場合などは、当然ですがアドバイスや助言、そして情報提供を積極的に行う場合もあります。

※治療目標はまだ他にもあります。次回に続きを記載します。

菊池秀一

≪参考文献≫

  1. Buirski,P.,Haglund,P.(2001). Making sense together: The intersubjective approach to psychotherapy. Aronson,New York/丸田俊彦監訳(2004).『間主観的アプローチ臨床入門』岩崎学術出版社.
  2. Descartes,R.(1637).Discourse on the Method.Cambridge University Press./谷川多佳子訳(1997).『方法序説』岩波文庫.
  3. Freud,S.(1920).Beyond the pleasure principle.SE,18:7-64./井村恒朗・小此木啓吾他訳(1970).『快感原則の彼岸』(フロイト著作集第6巻)人文書院.
  4. Jaenicke,C.(2008).The Risk of Relatedness.Jason Aronson./丸田俊彦監訳・森さちこ翻訳監修.『関わることのリスク』誠信書房.
  5. Kohut,H.(1977).The Restoration of the Self . University of Chicago Press ./ 本城秀次・笠原嘉監訳(1995).『自己の修復』みすず書房.
  6. Kohut,H.(1984).How does analysis cure ? University of Chicago Press./本城秀次・笠原嘉 監訳(1995).『自己の治癒』みすず書房.
  7. Malan,D.H.(1979).Individual Psychotherapy and the Science of Psychodynamics.Butterworth & Co./鈴木龍訳(1992).『心理療法の臨床と科学』誠信書房.
  8. McWilliams,N.(1999).Psychoanalytic Case Formulation.Guilford Press./成田善弘監訳(2006).『ケースの見方・考え方-精神分析的ケースフォーミュレーション-』創元社.
  9. Menninger,K.(1959).Theory of Psychoanalytic Technique.Basic Books./小此木啓吾・岩崎徹也訳(1969).『精神分析技法論』岩崎学術出版社.
  10. Gill,M.M.(1994).Psychoanalysis in Transition.The Analytic Press./成田善弘監訳(2008).『精神分析の変遷』金剛出版.
  11. Stolorow,R.D., Brandchaft.B.,&Atwood,G.E .(1987).Psychoanalytic treatment
    :An Intersubjective approach .The Analytic Press. /丸田俊彦訳(1995).『間主観的アプローチ』岩崎学術出版社.
  12. Stolorow,R.D.,Atwood,G.E.,&Orange,D.M.(1998).Working Intersubjectively.
    Analytic Pr. /丸田俊彦訳(1999).『間主観的な治療の進め方』岩崎学術出版社.
  13. Stolorow,R.D.(2007).Trauma and human existence.Taylor & Francis Group./和田秀樹訳(2009).『トラウマの精神分析』岩崎学術出版社.
  14. 富樫公一編著(2013)『ポスト・コフートの精神分析システム理論』誠信書房.

 

心の相談通信へのご意見、ご感想などありましたら心の相談のお問い合わせフォームへ、何でもお気軽にお寄せください。お待ちしています。