心の相談通信

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[2012.7-Vol.31] 心のミニ講座(9)『対処(coping)』について

すっかりになりましたね。
毎日のように節電を呼びかけられるせいか、余計に暑く感じられます。 
そして、今年は、オリンピックの夏です。わくわくしながらTVでの観戦を心待ちにしている人も多いのではないでしょうか?
今回の開催地ロンドンは日本と8時間の時差があるので、夕方から深夜にかけて中継され、応援に熱が入ることでしょう。
でも、オリンピックは3週間近く開催されているので毎晩深夜まで起きているのは身体には良くありません。
時間をずらして睡眠時間を確保すれば、辻褄は合うように思いがちです。
しかし、夜10時~深夜2時までの間は身体を休息モードにしないと、疲労が残り、老化が早く進みます。
では、体内時計の簡単なリセット法を知っておきましょう。 
先ず「朝、外の光を浴びること」これは曇っていても大丈夫です。次に 「朝食を決まった時間に摂ること」。 そして「夜、ぬるめの入浴」の3つです。 
試験が終わり夏休みに入るとますます夜更かしが増えると思います。
たまには自分の体内時計がどうなっているか、チェックしてみてくださいね。将来のためにも。

 

心のミニ講座(9)『対処(coping)』について

今回は『対処』についてご紹介したいと思います。心理学的にはこの『対処』という用語は、『ストレス』という用語ととても密接な関係を持つと考えられています。すでに、以前のコラムにおいて、『ストレス』についてはご紹介しました。その際の説明では、『ストレス』や何らかの症状(疾患)が生じるまでには、次のような一連の流れ(発症過程)が存在しました。

『ストレッサー』(寒冷・高温・労働・不安・恐怖などのストレスの原因) 

『生理的ストレス状態』(自律神経系・内分泌系・免疫系に生じる反応や変化) 

『各種疾患(神経症・抑うつ感・心臓病・癌・など)』

しかしながらその後の研究において、上記のモデルでは十分に把握しきれなかった領域についてもさらに検討が進められました。そして上記のような刺激や状況などによる『ストレッサー』が、必ずしもすべての個人にとって『ストレス』を引き起こすわけではないという点が特に強調されました。

すなわち、刺激や状況などに対する個人の意味合いや、傷つきやすさ、そして判断のされ方によって、個人の(最終的な)反応も異なるため、上記の『ストレッサー』とは『ストレス』を引き起こす潜在的な候補者であるに過ぎない面があると考えられます。また、仮にある刺激が『ストレス』であると個人に判断された場合も、それに対してどのような対応が取られたかによっても、当然ながらストレス反応には違いが生じてきます。

このように、ある刺激、状況、そして要求など(潜在的なストレッサー)をどのように意味づけたり、判断するか。そしてそれらが『ストレス』とみなされた場合に、どのような対応や努力がなされたかという点が、研究上とても重視されました。専門的には前者の評定過程を『認知的評定』、後者のストレスへの処理過程を『対処(coping)』と呼びます。

『認知的評定』のタイプ

『認知的評定』には『一次的評定』と『二次的評定』の二つのタイプがあります。また『一次的評定』には以下の三種類が存在します。

① 『無関係』・・・これは何らかの刺激状況との関わりが、それを受け取った個人の健康や幸福(価値・目標・信念)にとって何の意味も持たない場合になされる評定です。例えば筆者である私が「昨晩はかなり早く就寝した」という事実は、大部分の読者のみなさまにとって、おそらく何の意味も持たないことでしょう。 

② 『無害-肯定的』・・・なんらかの刺激状況との関わりが、それを受け取った個人にとって良好な状態が維持、強化される場合になされる評定です。またその際、喜びなど肯定的な情動を体験するという特徴があります。たとえば、自分の書いたレポートが、尊敬する先生からとても高い評価が得られたという事実は、大部分の学生にとって肯定的で、自分の価値や信念を脅かす体験ではない(無害)でしょう。

③『ストレスフル』・・・なんらかの刺激状況との関わりが、それを受け取った個人にとって自分の価値や目標などが「おびやかされている」と認知された場合になされる評定です。また、この評定にはさらに次の三種類の区分が存在します。
(a) 『害-損失』・・・自分の価値・目標などが“すでに”危うくなってしまった場合になされる評定です。
(b) 『脅威』・・・これは“まだ”実際には『害-損失』を被ってはいないけれども、“今後”それが現実になる可能性がある場合になされる評定です。
(c) 『挑戦』・・・なんらかの刺激状況が、それを受け取る個人にとって、利益や成長の可能性を与えると判断される場合になされる評定です。 例えばあなたがある日、とても重要な会合の場においての講演を、はじめて依頼されたとしましょう。その際、あなたが「この講演は自分の能力をフルに発揮できる絶好の機会だから、なんとか頑張ろう。」と解釈した場合は『挑戦』と評定されたことになります。

しかしながら、上記の『一次的評定』は、厳密に三つのタイプのいずれかに必ず分類されるかといえば、そうとは限りません。それぞれのタイプが同時に起こることも指摘されています。
例えばFolkmanとLazarusの試験へのストレスについての研究によれば、学生の94%が試験の二日前の段階で脅威(恐怖・心配・不安)と挑戦(願望・熱意・自信)の両方の感情を体験していることが報告されています。

ここまで、『一次的評定』について説明させていただきました。次に『二次的評定』について簡潔に説明したいと思います。『二次的評定』は、上記の『一次的評定』において『ストレスフル』と判断された場合になされる評定です。すなわちそのストレスフルな状況にどう対応したり、あるいはどう処理できるかということについて、個人が検討する認知的な過程のことを意味します。そのため、その過程においては次にご紹介する『対処』のタイプ(方略)とも密接な関連があります。

『対処』のタイプ

安留(1990)は大学生を対象に『対人関係上の問題』『学業上の問題』『自己の生き方に関する問題』での対処(行動)について調査を行い、次の計8項目のタイプとその具体的な行動内容があることを明らかにしています。
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① 『積極的対処』 
・その出来事を解決するために努力する
・その問題を処理するために積極的に行動する
・一つずつ、なすべきことをする
② 『相談』
・何をすればよいのかについて、他の人にアドバイスを求める
・自分の気持を誰かに話す
・同じような経験をした人に相談する
③ 『抑制』
・適当な時期がくるまで待つ
・何事もなかったように、つとめて平静にふるまう
・その問題をなるべく思い出さないようにする
④ 『信仰』
・神や仏の救いを信じる
・神や仏の助けを求める
・奇跡が起こることを期待する
⑤ 『昇華』
・そのことを忘れるために、趣味やスポーツに打ち込む
・その問題を忘れるために、仕事や勉強に専念する
・その問題についてあまり考え込まないように、TVや映画をみて気晴らしをする
⑥ 『消極的対処』
・その問題に集中するために、他のことは一時あきらめる
・周囲の者に当り散らす
・そのことで頭がいっぱいになって、何事も手につかなくなる
⑦ 『受容』
・その出来事の中によいところを見つけようとする
・何もせずに、ただその事態を受け入れる
・物事のなりゆきにまかせる
⑧ 『睡眠』
・いつもより多く睡眠をとる
・何も考えずに寝てしまう
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学生のみなさんは上記の中に、生活上(結果的に)行うことが多いと感じる『対処』はどれか見つかりますか?

『スモール・ステップによる問題の解決』

最後に上記の『積極的対処』と深い関連があると考えられる、三川(1993)の『スモール・ステップによる問題の解決』をお伝えしたいと思います。

以前に『強迫』についてもコラムでご紹介しましたが、私の臨床経験では、様々な不適応・精神病理の中核に『強迫』の心理機制が存在することに気づかされることが少なくありません。(病理や不適応の水準にもよりますが)そのような『強迫』による不適応状態に対しても、この『スモール・ステップによる問題の解決』を活用することで、『対処』できる可能性はより高まるのではないかと私は考えています。『スモール・ステップによる問題の解決』には次の七つの段階があります。

『第一段階=課題の確認』・・・やらなければならいと思う課題をできるだけ多く具体的に書き出します。また課題に期限があればそれもあわせて書き入れます。まずこのようにはっきりと紙の上に書き出すことで、より課題を客観的にみることができます。

『第二段階=優先順位づけ』・・・次の二つの視点から課題の優先順位を決定します。 
① 課題の重要性
② 解決の可能性(課題達成への難易度・所要時間・自分の意欲の程度に照らして、どのくらい“容易に”解決できるかについての可能性。)

『第三段階=課題の選択』・・・上述の二種類の優先順位を基に取り組む課題を選択します。次に示す二つの状況(場合)に合わせて課題を選択してください。 
① 課題へのやる気や動機が高い場合 
⇒課題の重要性の優先順位を重視する。 
② 課題へのやる気や自信が乏しく、ストレスが強い場合
⇒解決の可能性の優先順位を重視する。 
この際、選ぶ課題の数は、“まず1~2個にとどめること”をお勧めします。数が多過ぎれば、当然ながらそれだけ注意は拡散しやすくなると考えられます。

『第四段階=解決策の検討』・・・上述のように、すでに優先順位を選別した課題を解決するために必要とされる、具体的な作業を考えます。 
例えば「プレゼンをする」が課題であるならば、必要な作業を少しずつ細分化して、「プレゼンのテーマを絞る」「プレゼンに必要な資料を集める」「プレゼンに必要な資料の内容を確認する」「図や表などのデータを整理する」「説明する内容を下書きする」「説明する内容を整理する」などのように作業を分類して、具体的に書き出していきます。一見すると複雑な課題も、細分化された一つ一つの課題のハードルはそれよりも低く、それほど困難ではないことが見えてきます。

『第五段階=行動計画』・・・スケジュール表などを活用して、“課題の提出期限”を考慮しながら、ひとつひとつの部分的な課題に“実行予定の日時”と“所要時間”の両者を書き出します。

『第六段階=計画の実行』・・・課題をひとつでも達成できた場合は、それが“できた”ことを(印を付けるなりして)確認できるようにします。また、スケジュール表を基に、現在、自分がどこまで進んだかをチェックして“振り返る”ことが重要です。少しずつでも達成感を持つことで、自信や動機付けを高めるきっかけとなります。

『第七段階=計画の評価』・・・計画全体の進行状況を確認します。予定通り進んでいない場合は、第五段階に戻り計画を再度立て直します。

上記の七段階の全てを慎重に作業できればそれにこしたことはありませんが、まず最初の段階から順番に、“できる範囲で明確にしてみる”ことが、とても重要であると私は考えています。

今回は『対処』についてご紹介しました。コラムの作成作業をしながら、私自身、状況をどうとらえ、行動していくかということについて改めて検討する機会になりました。補足したい項目は他にも多々ありますが、学生のみなさんのよりよい学生生活に少しでも繋がるものがあれば幸いです。

For there is nothing
either good or bad but thinking makes it so.
WILLIAM SHAKESPEARE

 

《参考文献》
1. 小杉正太郎 編(2002).『ストレス心理学』川島書店.
2. Lazarus,R.S.&Folkman,S.(1984).Stress,Appraisal,and Coping.Springer./本明寛 他訳(1991).『ストレスの心理学』実務教育出版. 
3. 中西信男・三川俊樹・古市裕一(1993).『ストレス克服のためのカウンセリング』有斐閣選書.
4. Shakespeare,W.(1600-1601). HAMLET. PENGUIN BOOKS./ 野島秀勝訳(2002).『ハムレット』岩波書店.
5. 安留充弘(1990).『人生観が生活ストレスの規定要因に及ぼす影響』追手門学院大学文学部卒業論文(未公刊).

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